赤十字にあこがれ専検を目ざす

赤十字にあこがれ専検を目ざす

 戦地での日本軍の活躍が大々的に新聞ラジオで報道されるにつけ、私は赤十字看護婦となって戦地へ行くことにあこがれのようなものをもつようになってきた。しかし、それには高等女学校卒業程度の資格が必要であることがわかった。結局それには専門学校入学者検定試験に合格するより他なかった。この制度のあることを知った私は、これに挑戦してみる決心をし、早稲田大学講義録を取り、普通科の勉強をはじめることにした。
 講義録は三十六ヶ月(3年)終了で、毎月送られてくる新しい本を手にするのは嬉しいことであったが、一冊の本を一ヵ月でマスターすることは無理で、月が進むにつれて全然目を通すことができないうちに次の本が送付されてくるようになってきた。
 専検は九科目(修身、公民、国語、数学、理科、歴史、地理、裁縫、家事)を合格しなくてはならず、一度に全科目の受験は自信がないので、比較的やさしい学科から受けてみようと考えた。
 昭和十三年の三月で一応予定のお礼奉公は終わったが、磯崎先生の方から、差し迫ったことがなければもう少し続けて勤めて欲しいとの話があり、私も転々と勤務先を変えるのは余り好まなかったのでこのままの生活が続くこととなった。
 そんなある日、思いがけなく出征していた兄が戦地から隊へ復員してきた。少し細くなったように思われたが元気そうで、両肩の星が一つずつ増えて、曹長に進級していた。だがまた、何時戦地へ赴くかわからないとの話であった。
 専検を受けるということに次兄も賛成してくれていたが、普通なら四、五年間学校へ通って卒業するものを、指導して貰う人もなく、勤務しながら一人で講義録だけを頼りに勉強するのは、並大抵のことでなくどうしても無理をすることになるので、身体をこわしたりしては、元も子もなくなるので、それを一番心配してくれていた。

(10月2日「兄の出征」に千人針の写真を追加しました)