村に電気がきた

村に電気がきた
 私が小学二年の春頃から、作業服を着た見慣れない男の人が三、四人であちこちの田圃や畑の中に、太くて真っ直ぐな柱を立てては黒い線を引っ張って、柱と柱をつないでいた。
 電気という明るい物が入るので、もうランプは必要がなくなるとの話であった。
 そのうち私の家でも主屋と離れの部屋に一個ずつ引いて貰った。離れは兄たちが寝起きしたり、勉強部屋でもあったが、また、煙草を保存しておく所でもあった。 

 その日の夕方、あたりが薄暗くなってきた時、パッと電球が明るくなり、十五燭光だったが部屋の隅々までよく見えた。ランプの明かりとは格段の違いだった。
 私は、「うわっ、電気がついた!」とはしゃいで、表へ出て東の家の前へ走って行って見ると、中の間の障子が明るくなっていた。川向こうの家々にも明かりが輝いて明るかった。
 電気はあの黒い線を通って、一軒一軒順番についてくるのかと思っていたら、一度にみんな一斉に明るくなるのが不思議で仕方がなかった。